夏休みの親子樹木教室余談

木守樹木医

2015年06月12日 23:05

 夏休みの親子樹木教室の余談として、次のような話題を考えていますが、誤りなどご指摘いただければうれしいです。

(付録1)樹木の水吸収のしくみ
 世界で最も背の高い植物は、アメリカのレッドウッド国立公園(カリフォルニア州)にあるジャイアントレッドウッドという樹木(セコイアの仲間)で約110mあるそうです。日本一背の高い樹木は、福島県杉沢にある大杉で約68mだそうです。
 
 このような背の高い樹木の先端まで根は水を押し上げているのか、実は、まだそのしくみはよく分かっていません。通常、次のように説明されています。

 「根で吸収された水は、根圧によって導管(裸子植物は仮導管)を通り、上に押し上げられる。導管は細い管であり、水分子は凝集力で強く結びついている。導管は根から葉までつながっており、葉から蒸散によって水が出ていくと、その水に引っ張られて水は下から上へ引き上げられる。」
 
 水は、樹木にとって光合成に必要なだけでなく、蒸散によって葉の表面温度を冷やす役目を果たしています。根で吸収した水の約95%程度を葉の気孔から蒸散によって空中へ放出しています。
 
 樹木の根は、土壌中の養分も酸素も全て水に溶けた状態のものしか吸収できないので樹木は大量の水を必要とします。根の根毛は細いと言っても土壌粒子からすれば大きいので、土壌粒子と強く結びついた水や養分を吸収できません。

 それでほとんどの樹木は菌根菌と共生し、根毛が入らない土壌粒子の隙間に菌根菌の菌糸を伸ばして、菌根菌経由で水や養分を吸収しているのです。そのかわり、樹木は菌根菌に光合成産物を与えています。このような相利共生のしくみが樹木と菌根菌の間でできあがっています。


(付録2)樹木におけるピタゴラスの定理 
 樹木は、根から葉の先まで細い導管(裸子植物は仮導管)で繋がっています。すると、幹や枝は導管の集まった一つのパイプとみなすことができます。
 
 パイプであれば、一つのパイプから枝分かれした二つのパイプとの関係は、元のパイプの断面積が、枝分かれしたパイプの断面積の合計に等しいことになります。すなわち、元のパイプの直径をAとし、枝分かれしたパイプの直径をそれぞれB、Cとすると、Aの2乗=Bの2乗+Cの2乗の関係が成り立ちます。これは、三平方の定理(ピタゴラスの定理)です。
 
 樹木の古くなった導管は水を通さなくなるのでパイプとは異なりますが、葉のついている枝では、こんな関係がほぼ成り立っているようです。
皆さんも確認してみてください。樹木にもピタゴラスの定理が成り立つとは驚きですね。


(付録3)ガリバー旅行記と樹木の養分吸収量
 ガリバーが小人の島に漂着したとき、小人はガリバーの食事の量をどれだけにすれば良いのか考えました。身長を測ったら小人の12倍あったそうです。

 それで小人は、この大男の食事の量は体重(比重を同じとすれば体積)に比例するだろうと考えて、ガリバーに12の3乗=1728倍の食事を与えたとガリバー旅行記に書いてあります。ガリバーはほんとうにこの量を食べ切ったのでしょうか。

 一般に、動物の基礎代謝量は、体重の3分の2乗、体重は長さの3乗だからすなわち、長さの2乗=表面積に比例すると考えられています。また、活動エネルギー量は、体重に比例すると考えられています。そして、動物の総エネルギー量は、体重の4分の3乗、すなわち、長さの4分の9乗=長さの2.25乗に比例するといわれています。すると、ガリバーの食事の量は、12の2.25乗=約269倍で良かったのではないかと思われます。

 一方、植物はどうでしょうか。植物は、根で水や養分を吸収し、主に葉の気孔から二酸化炭素(CO2)を吸収し、太陽エネルギーを利用して光合成(炭水化物の合成)します。根で吸収できるのは全て水に溶けたものであり、葉の気孔から水の95%程度を蒸散します。

 樹木の養分吸収量は水の吸収量に比例するので、葉の表面積を含む樹体の総表面積、すなわち長さの2乗に比例するのではないかと思われます。その基準に従うのであれば、同じ樹種で、樹勢が同程度の長さが2倍の樹木への施肥量は、2の2乗=4倍となります。

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